コイプレス
小井戸 幸子(こいど さちこ)さん
どのような事業をされているのですか?
手で作る本「手製本」「私家版(プライベートプレス)」と「色鉛筆画」の受注制作・コンサルタント、ワークショップをやっています。手製本は製本のみ、私家版制作は本の内容から製本までを行う違いがあります。公の出版ではなく手書きコピー・パソコンやプリンター等を使用したプライベートでできる範囲の1冊から少部数の本作りです。また色鉛筆という親しみやすい素材を使い、初心者でも楽しく絵が描けるワークショップを開催しています。また自作の展示・商品販売も行っています。
いつから起業を意識されましたか? どのような準備をしましたか?
自作の個展やワークショップは25年位前から不定期に行っていました。ワークショップの内容は都度内容が違うことが多く、様々な形の手製本のサンプルやテキストが増えていきました。イベント時のお知らせのツールとしてはDM送付の他、ブログやFacebookをやっていましたが、段々と増えていくコイプレスのアーカイブの仕事を見て頂けるよう、きちんとWEBサイトを作りたいとずっと思っていました(でも正直、なまけておりました)。2020年はコロナ禍の中、吉祥寺のモノギャラリーさんで当初5月に個展を行う予定でしたが、延期の末9月に行う事ができました。そのような中、ご来場頂いた方々には本当にいつにもまして感謝の念でいっぱいでしたが、「会場に行くことはできないけど応援しています」というメッセージも多く頂きました。やはりこれはWEBでもきちんと見て頂く場を作らなければと改めて思いました。個展の後、2021年2月にコイプレス公式WEBサイトを立ち上げる事を決めて、今までの製本ワークショップや作品制作の資料の棚卸を行い、あらためて作品写真を撮ったりコメントを書いたりと準備を進めました。資料は思ったよりたくさんあって自分でもびっくりしました。そして公式サイトを作るにあたり、個人事業の登録を行う事にしました。起業についての勉強は、東京都が行っている「TOKYO創業ステーション」のオンラインイベントに参加したり、コンシェルジュの方に対面でご相談したりしました。
起業のきっかけはなんですか?なぜ起業したのですか?
このタイミングでWEBサイトを作成して起業したきっかけとしては、長年何度も個展をさせて頂きお世話になった吉祥寺のモノギャラリーさんが2020年末に閉廊されたこと、コイプレス人気の私家版「図書館ねこキヨシシリーズ」が10周年を迎えたことがありました。ひとつの区切りとして新たな仕事の発信の場を作りたいと思いました。コロナ禍でリアルの対面でのワークショップが難しい状況が長く続く中、その半面WEBを通じてのやりとりがむしろ盛んになったと感じたということもありました。また、今までワークショップ参加者の方々に自分の手で本を作り上げた時の嬉しい気持ち、私にも絵が描けた!という高揚感を何度も見せて頂きました。手製本も色鉛筆画も手順を知れば家の中で一人でできる作業です。大がかりな準備や広い場所もいりません。静かに家の中で過ごす時間としては本当に達成感のある、できあがればわりと人にも自慢できる、あまりお金もかからない、よい楽しみだと思います。この時代にこそ、一枚の白い紙が本になったり、額に入れて楽しめる絵になったりするワクワク感をぜひ味わって頂きたい。そう思ったことが起業したそもそものきっかけ、根底にある気持ちです。
あなたの事業の強み、アピールポイントは何でしょうか?
WEBサイトはとにかく見やすく楽しいサイトにしたいと思い、プロの方に制作を依頼しました。そして予定通り2021年2月に立ち上げました。様々な形の手製本や私家版作品、色鉛筆画のスケッチを紹介しています。情報や新作もアップしています。本づくりのページに「3さいも100さいもわたしの本づくり」というコピーをつけました。実際に私がワークショップで出会った、手製本にご参加くださった最年少は4歳、最年長は90代の方でした。やりたいと思う気持ちがあれば本当に3歳でも100歳でも本を作ったり絵を描くことはできます。さまざまな年代の方が本という形、絵という形の作品を作ることによって得られる喜びを、今までの経験値によっていろんな形でご提案できることがコイプレスのアピールポイントです。そして、ご自分では作ったり描いたりはしないけれど、作品を楽しんだり飾ったり、ご紹介して応援して下さるお客様がいらっしゃるのも大変ありがたい、コイプレスの強みです。娘さんが絵が好きだから、お父様の本を作りたい、こういうの絶対好きな友人がいるから紹介したい等、口コミでお仕事のきっかけを頂くことが多く、本当に感謝しています。
起業して感じることは?
WEBサイトは思いがけない方からも「見てます」とお声がけ頂いたり、遠く海外の方からもリアクションがあったり、本当に想定外で嬉しいことでした。起業して悪かった、と言えることはありませんが、反省したり心残りがあることはやはりあります。これは改めて起業する前の仕事の例ですが、ある病床に居られた方のご自身の本を作成中に、完成を前に他界されてしまった事がありました。間に合わなかった事は本当に申し訳ない気持ちになりましたが、ご本人との間にたって編集作業をして頂いていた方から、最後まで試作版を枕元に置いて喜んでいましたよ、とのお声を頂きました。本は一緒にお棺に入れて頂き、天国に持って行って頂いたそうです。お体がつらくても、ご自分の趣向にあったデザイン・校正のやりとりを何度も妥協することなく行っていた方でした。本づくりは伝えたい、残したいと思うことを整理することにもつながります。そして本という形は、不思議と近しい方でも、その内容を客観的に読んで頂くことができるようです。コイプレスは文章や詩や俳句、イラストや写真、版画や絵本原稿など、まず本の形にしてみたい、という方と一緒に効果的な本づくりをしています。ちなみに「コイプレス」という屋号は自分の苗字と出版=プレスをかけた造語です。
起業を志す方へのアドバイス
まだまだ、私がアドバイスを頂きたい位なのに書かせていただくのは恐縮ですが、どんな事でも、常に人に喜んで頂けた!という体験はカウントしておくべきかな、と思います。今の仕事ではなくても、いつか起業という、自分軸で仕事を始める時にはそれは指針になる気がします。得意な事、不得意な事は自分がよくわかっているようで、案外そうでないこともあるからです。
アドバイザーからの一言美大出身の小井戸さんは、版画の経験から印刷・製本の魅力に気が付いたとのこと。働きながらの個展やワークショップを始めて25年というお話ですから、今回の起業はまさに「機が熟した」といったところでしょうか。コンテンツやツールも十分蓄積されていたはず。ギャラリー閉館や作品10周年等、複合的な要因が後押しにもなっています。個展やワークショップ、Webで発信することと、小井戸さんのお人柄が掛け合わせられ、ファンや仲間の輪を拡げているのでしょう。 株式会社マネジメントブレーン代表取締役 社長 姫野 裕基 |