イラストレーター・絵本作家
おさだ かずな さん
どのような事業をされているのですか?
色鉛筆で緻密に塗り重ねる作風のイラストを制作するイラストレーター・絵本作家として活動しております。広告、商品パッケージ、自治体のパンフレットなど、企業から依頼を受けて制作する商業イラストを中心に、商品をPRするノベルティ絵本や企業理念をストーリーに落とし込んだ絵本風カレンダーの制作まで行っております。今年6月に著書「空想色鉛筆レッスン」という色鉛筆の技法書を出版し、武蔵野市にあるユメノギャラリー吉祥寺さんで著書に収録されているイラストの原画展を開催しました。
いつから起業を意識されましたか? どのような準備をしましたか?
進路を考える中で、小さな頃から好きだった絵を描いて生きていきたいと考えました。高校3年生の春に美術部に入部し、講師の傍らアーティストとして活動する恩師に出会い、絵の道に進むことを決めました。その中で、イラストレーターや絵本作家の就職先というものがないことを知り、いずれフリーで活動することになるだろうな…ということはやんわり意識していました。しかし、そのために何かを準備することはなく、学ぶことや描くことに熱中し後回しにしていました。田舎から上京し、専門学校入学後も一心不乱に絵を描いたり、課題の制作に追われていたのを覚えています。絵を描いて生きていくという覚悟のようなものはあったのかもしれないのですが、絵で食べていくことに対する実感はずっと持てずにいたのだと思います。ですので、準備をしたものは名刺とポートフォリオ、webサイトくらいだったと思います。卒業後はアルバイトをしながら絵を売り込んでいくのですが、経験も実績もない若者が大人から信用を得ることはとても難しく、なかなか仕事につながることはありませんでした。雑誌の編集部や制作会社、飲食店などでアルバイトを掛け持ちしながら、イラストが必要なときは声をかけていただけるよう行く先々でイラストや絵本が描けることをアピールしていました。その中で、少しずつ絵を描かせてもらい、売り込みをしながら徐々に実績を作っていきました。
起業のきっかけはなんですか?なぜ起業したのですか?
起業のきっかけはタイミングと言いますか…成り行きでこうなってしまったという表現が適切な気がしています。アルバイトをしながらイラストを売り込む生活をしている中で、絵本の挿絵のお仕事のご相談をいただきました。本の発売日が決まっていたので、締め切りに間に合わせるためにはアルバイトを辞めなくてはいけなくなり、その流れでフリーランスになりました。しばらくの間はイラスト以外のお仕事もお受けしながら生活し、武蔵野市で活動を始めた5〜6年前にイラスト一本で暮らせるようになりました。それでもなかなか安定することはないので、仕事がないときは不安ですし、仕事が立て込んでしまった時も余裕がなく、なんだか常に不安の中で生きている気がします。しかし、深夜に作業する方が性に合っていたり、決まった時間に出勤して働くことが向いていなかったこともあり、この頃はアルバイトをしたり就職するという選択肢はありませんでした。贅沢な暮らしはできませんが、今の生活は自分には合っていて、小さいけれど豊かに暮らせていると思っています。
あなたの事業の強み、アピールポイントは何でしょうか?
とにかく真正面から向き合い丁寧に仕事をし続けてきたことと、簡単に真似できない絵を描いていることだと思っています。絵はとても正直でおしゃべりなものだと感じています。中途半端な気持ちで描いたものは見た人に伝わってしまいます。それは、絵に詳しくない人にほど感覚的に分かってしまうものだと思いますし、特に子どもに対しては絶対に手を抜いたり、子ども騙しにしてはいけないと考えています。ですので、まず商品について詳しくお話を伺ったり、自分なりに調べて対象を好きになるところから始めます。どんな思いで商品を作られていて、どんな人にどんな風に届けたいのか、私なりに理解し、絵に思いを塗り重ねていきます。そして、色鉛筆で緻密な絵を描くことは時間がかかる作業なので正直割りに合いません。色の重ね方は感覚的なことが多く、限られた時間の中で色鉛筆でこの表現をすることは誰にでもできることではないと自負しています。
起業して感じることは?
起業してよかったことは、絵を通してたくさんの素敵な方と出会えたことです。描いていなければ出会うことができなかった人や、感じることができなかったあたたかい気持ちがたくさんあります。実績がほとんどなかった頃にお仕事をくださった方、食べられない時期にご飯をご馳走してくださった方、原画展に遊びに来てくださった方、絵を大好きだと言ってくださった方…。これまで絵しか描いてこなかったので、絵が生き様というか…絵が全ての人生を送ってきました。その絵を好きでいてくださることは、なんだか私の生き方を認めてもらえたような気がして、ありがたくて、これからも描き続けなければと思わせてもらえます。そして、私自身の話になりますが、自己肯定感が低く、褒め言葉を素直に受け取ることのできる器がありませんでしたが、ただひたすら絵と向き合い15年続けてきたことと、大変な思いをしながらも一つのことをやり切った経験をしたことで、ここまでやったら頑張ったと思っても良いだろうと思えるようになりました。人に恵まれ、自分自身も成長することができたのは私にとって大きな経験だったと思います。悪いことは、人を人として見ていない大人が思っていたよりたくさんいるということを知ってしまったことです。人間不信になったこともあり、今も大丈夫だろうかと不安になることがあります。
起業を志す方へのアドバイス
私自身、アドバイスができる立場ではないのですが…。どうか焦ったり急いだりすることなく、自分のペースで自分に合ったやり方で描き続けていただきたいなと思います。私は自分の絵を上手だと思っておりませんし、才能もセンスも持ち合わせておりません。たくさん描きましたし、努力はもちろんしましたが、描き続けていたからイラストレーター・絵本作家になれました。どんなに絵が上手で才能やセンスがあっても描くことをやめてしまったらお終いなんだと、素敵な絵を描く仲間が筆を折るたびに感じてきました。
アドバイザーからの一言就職先がない職種、フリーで活動するしかないという中で独立をしたおさださん。しかし誰もがイラストレーターや絵本作家として独立できるわけではありません。様々なアルバイトを掛け持ちしながらでもあきらめず、根気よく継続してきた結果、ですね。おさださんの作品は、まさにそのような想いが乗り移ったかのように、大変緻密に塗り重ねられ「えっ、色鉛筆?」と思ってしまうような作品ばかりです。「絵が生き様」という言葉、深く、そして響くものですね。 株式会社マネジメントブレーン代表取締役 社長 姫野 裕基 |