武蔵野商工会議所 会頭
株式会社武蔵境自動車教習所 代表取締役会長
髙橋 勇(たかはし いさむ) さん
武蔵境自動車教習所は東京で一番の受講者数を誇る自動車教習所です。代表取締役会長であり、また、2021年に武蔵野商工会議所の会頭に就任された髙橋勇さんにお話を伺いました。
武蔵境自動車教習所の歴史を簡単にお話いただけますか?
武蔵境自動車教習所は、今年63期目の会社です。創業の昭和35年は、まさに日本のモータリゼーションが花開く時代でしたので、教習所があればお客様に来ていただける社会環境でした。社員12名でスタートして、毎年たくさんのお客様にご利用いただいき、技能教習の予約を取るために朝の5時ごろからお客様が教習所に来られるという、今では考えられない状況でした。私は昭和57年の10月1日にこの会社に入社いたしました。それまでは都心の生命保険会社におりましたが、この会社に入社して、あまりに旧態然とした経営に驚き、違和感を持ちました。昭和63年に労働組合が発足して、それからの一年間は大変に厳しい状態になりました。翌年4月1日に初代社長が勇退し、二代目の社長が就任しましたが、4月2日に自殺いたしました。そして、4月3日から私がこの会社の社長に就任いたしました。それからずっと労働組合と話し合いを続け、平成7年の35周年の時に「共尊共栄」という経営理念を発表しました。平成9年には労働組合のほうから「もう団体交渉はしなくて結構です」と「社長の決めた金額でのベースアップ、賞与も社長が決めてください」というお話をいただきました。社員さんに私の経営を理解していただくのに、10年かかったというわけです。平成12年の40周年には、「東京で一番の会社になろう」というビジョンを掲げ、結果的にその年には東京で一番にはなれませんでしたが、二番になることができました。社員さんと経営が一体となって、会社の成長が図れたことが、今の会社の礎となっています。一昨年は創業依頼初めて8000人以上、昨年は9800人というお客様にご入所いただいて、平成12年に掲げた「東京で一番になる」というビジョンを20年以上を経て達成できました。それは社員さんのたゆまぬ努力で残せた実績であり、地域の皆さんに認めていただけた成果だと思います。ベースにあるのは「共尊共栄」という理念で、私たちとお客様、地域社会も「共尊共栄」、もちろん会社と社員さん、社員さん同志も「共尊共栄」、とにかくお互いに「共尊共栄」という想い、そこにあるのは「感謝」です。「感謝」という想いを「対お客様」「対地域社会」「対社員さん」「社員さん同志」、お互いに感謝して日々の仕事をさせていただくという理念が、この会社に根付いてきたのかなと考えております。
地域の方との交流も大切にされていますよね?
社長になってから正直に言うと辛い年月だったんですが、平成元年の12月に初めて餅つき大会を開催し、翌年の8月には第1回の花火大会を開催しました。それからずっと33年間、餅つき大会と花火大会は続いています。自動車教習所は閉鎖的な空間ではありますが、そのスペースの広さを使ってできることもあります。フリーマーケットを開催したり、土曜日の夜はコースをナイトランに使ってもらったり、とにかく開放して使ってもらうことで、地域の方にも武蔵境自動車教習所の経営姿勢をご理解いただけたんじゃないかなと思います。コロナ禍でこの2年間は夏の花火大会はできなかったんですが、社員さんの提案もあって、少しでも勇気づけられるようなことをしようと、冬の花火大会を開催しました。「勇気をもらった」「元気が出た」というご意見をたくさんいただきましたので、昨年も2000人ぐらいの方にお越しいただいて開催しました。今年は夏の花火をやりましょうと社員さんから提案してもらったので、事前登録制で開催しました。当日は2万人以上の方に花火を楽しんでいただけたと思います。お客様からいただいた喜びの言葉に我々も感動いたしました。本当にやってよかったなと思います。今年は12月27日(火)に餅つき大会と冬の花火大会も開催します。地域のみなさんに武蔵境自動車教習所があってよかったと感じていただけることをやっていこうというのが弊社の経営方針です。どんな状況にあっても、やり方を変えればできる、そこが「知恵」の使いどころだと思います。来てくださった方が安心して楽しめる環境を作るのが、私たちの仕事です。皆さんに喜んでいただけることが、次への大きなエネルギーとなっています。
昨年、東京で一番になられた原動力はなんだったんでしょうか?
コロナで業務を自粛をしていた時期があり、それはマスクも手に入らない時期でした。そこで、教習所でストックしてあったマスクを受講者さんや地域の方に提供しました。次亜塩素酸水を作る機械もあったので、小さいボトルを大量に買って、みんなでそれに次亜塩素酸水を詰めて配布しました。それが大きなターニングポイントになったのではないかと考えています。そのことによって、武蔵境自動車教習所が地域やお客様にに寄り添っている教習所であり、困っている時に助け合える会社なんだと知っていただけたことが、大きな飛躍に繋がったと思います。地域の方々やお客様を大切にする、そういう経営判断ができるところが武蔵境自動車教習所の強みでもあると思います。社員さんも一体になって、みんなでがんばってこの危機を乗り越えていこうという気持ちで、会社がより一枚岩になることができたきっかけでもあります。また、コロナの影響で大学などでもオンラインの授業が行われていましたが、教習所でも対面での授業は極力なくしていこうと、学科はオンラインなどでできるようになっていきました。弊社ではいち早くそれに取り組み、最初はライブで学科を配信しました。すると、それに対してものすごい反響がありました。お客様の「感染リスクを抑えつつ免許を取りたい」というニーズにいち早く応えられたことが、お客様の喜びに繋がったということを実感しました。自社開発した動画配信のオンデマンドのシステムもご好評いただいて、今では都内の離れた場所にお住まいの方も受講されるようになってきました。もうひとつ、コロナ禍でオートバイ免許のニーズがものすごく増えています。コロナの前から少しずつブームが来始めているかなという手応えはあったのですが、自粛で休業している間に「バイクブームが来る」という予測をして、それに対応できるように手を打っていました。一気にオートバイの台数を増やして、受講を希望されるお客様を受け入れられる環境を整えることができました。そういった経営判断の速さが、お客様のご期待に応えられることになったのかなと思います。それが結果的に東京で一番に繋がったと思います。今でもお客様のニーズは日々変わって来てると思いますが、そのニーズをいかに早くキャッチして、いち早く対応できるように、我々のサービスを向上させていくことが継続的な業績に繋がるのかなと思います。「東京で一番になる」というビジョンを掲げてから、ずっとその繰り返しでやってきました。それがここで花開いたということです。この成功体験を後輩たちに繋げていきたいと思います。
武蔵境自動車教習所さんは、社員さんをとても大切にされていますよね?
経営はお客様が何を求めているのか、社員さんが何をしたら喜ぶのかを考えることです。なぜなら、社員さんが一番お客様の近くにいるから、お客様のニーズは社員さんが一番早く感じ取ります。それを経営側に伝えてもらって、形にしていきます。社員さんはそのご両親からの預かり物ですから、粗末に扱ったりしたらご両親は悲しむでしょう? そしてもうひとつ、社員さんは社会からお借りしているのです。何かのご縁でこの会社に来てくれたのだから、しっかりお手当や賞与も支払って、福利厚生もしっかりやります。どこの会社でも「顧客満足」とは言いますが「社員満足」なくして「顧客満足」はありません。社員さんは自分が幸せな生活ができるのはお客様のおかげだと理解しているから、お客様を大切にするんです。そのお客様は地域社会の方たちだから、地域に貢献することをしたい。その連鎖なんですね。つまり、社員さんが幸せになることが、会社がよくなることなんです。
創業する方に何かアドバイスはありますか?
起業家は自分がやりたいことをやるのが大切だけれど、お客様や世の中にどんな貢献ができるのかをしっかりイメージして起業することですね。そうすることで社会に対する使命感ができてくると思います。お客様が何を求めているのか、地域社会にどんな良い影響を与えられるのかを考えて、ニーズを捉えて準備することが大事ですね。
(取材:いなだゆかり)
指定自動車教習所
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