株式会社武蔵境自動車教習所 代表取締役会長
髙橋 勇(たかはし いさむ) さん
武蔵境自動車教習所の代表取締役会長であり、武蔵野商工会議所の会頭でもある髙橋勇さん。一昨年は武蔵境自動車教習所の代表取締役会長として、昨年は武蔵野商工会議所の会頭としてお話を伺いました。今年も創業者にとって大切な経営についてのお話を伺いました。
髙橋さんが経営者として大切にされていることは何ですか?
まず第一に、社員さんを大切にすることです。「仕事をさせてやってる」だとか、「使ってやってる」だとか考えてる経営者の社員さんは、「仕事をやらされている」とか「仕事をしてやっている」と感じ、いい仕事はできません。そしてそれはお客様に伝わります。
そうではなく、経営者が「お客様にサービスをするのは社員さんで、私の代わりにがんばってくれている」と思えば社員さんを大切にします。私の人生も一回ですが、社員さんの人生も一回限りです。私の人生をより良い人生にしてくれるのも社員の皆さんですから、その社員さんたちの人生が、どうしたら豊かなものになるか、経営者として真剣に考えなくてはならないと思います。また、その社員さんの後ろには、その家族の皆さんもいることを忘れてはならないと考えています。
社員の皆さんが幸せであればこそ、「私たちがこうして良い人生を送れるのはみんなお客様のおかげだ」ということがわかると思います。そして、お客様に対してどうするのが良いかを考えるようになります。まず社員を幸せにすることが経営者の責任だと思います。
武蔵境自動車教習所の「共尊共栄」という理念は「一、社員と社員の家族を幸せにする」「二、お客様に感動を与える仕事をする」「三、地域社会に認められる会社になる」という3つの柱でできています。経営者はよく「顧客満足度を上げろ」と言いますが、社員の満足度が上がらないと顧客満足度も上がりません。また、「共尊共栄」は会社の理念でもありますが、それは私自身の人生の理念でもあります。
いつから起業を意識されましたか? どのような準備をしましたか?
ものを作るのが好きなので、理想のものを追いかけていたら起業に至りました。2023年に創業しましたが、2019年には理想のシャンプーを作りたいと意識し始めました。事業の方向性を決めることからスタートし、【最高峰のシャンプーを、続けやすい価格で】というテーマを定めました。品質が最高峰であることを最優先事項とし、ありとあらゆるシャンプーを購入し成分を調べ、1日に何度も試して使用感をまとめました。
もともと成分オタクだったこともあり、ある程度知識はありましたが、研究者と話す際に丸投げしないよう化粧品や毛髪に関する資格も取得しました。理想を具体化し、企画書を作成して製造依頼できる企業にアポイントを取りました。お話しさせていただくことを繰り返し、製造パートナーが決まった後も数多くの試作を重ね、商品開発だけで1年半がかかりました。
ECでの販売を考えていたので、商品開発をしている間に、サイトの準備をし、販売価格を決め、同梱物を作成し、お客様の顔を想像しながら準備を進めました。また、一緒に考えてくれる先輩起業家や仲間の起業家がいたことも大きな支えでした。すでに理想の状態になっている人々から意見をもらうようにし、プロダクトをより良いものに仕上げていきました。
「共尊共栄」という理念はどんなことに由来していますか?
私が生まれた昭和22年は、戦後からまだ間もないころですから、甘い物などない時代でした。誰かのお葬式でお饅頭をもらって来ると、祖母は長男である私に兄弟の分を切り分けるようにと言いました。「お前が切り分けて、お前が一番最後に取れ」と。そして、「美味しいものは絶対に一人で食べちゃいけない。美味しいものはみんなで食べればもっと美味しくなるよ」と。それが私の根幹にあります。
また、祖母は「絶対に物を粗末にするな」と言いました。物は使えば道具や材料になるけれど、捨てればゴミになるだけだということですね。そして、最も粗末にしてはいけないのは「人」、つまり社員さんです。社員を粗末に扱うことは、自分の人生を粗末に扱うのと同じことだと気付かされました。
「嘘をつくな」「人に後ろ指を指されるようなことをするな」「約束したことは必ず守れ」。これらは全て私が子どもの頃の祖母からの教えです。子どもの頃にはわからなかったけれど、経営を始めて「確かに祖母の言う通りだな」と気付いたこともたくさんあります。ただひとつ、「男は台所に立つな」という教えだけは間違っていたような気がしますが(笑)。
やはり「人」が大事だということですね。その人財はどのようにして育てるのでしょうか?
弊社は経営計画書を毎年幹部と社員が一緒に作成し、月次決算を毎月全社員に公開しています。数字を作るのは社員さんです。今、自分たちの仕事の成果がどうなっているかわからないといけないと思います。利益が出なければ危機感を持つし、利益が出ればもっとがんばろうという気持ちになると思います。
組織で最も重要なのは「人財」です。経営者は「次に誰にバトンタッチするのか」も考えて経営しなくてはならないと思います。経営は人の持っている「欲」を引き出して、最大限の力を発揮していただくことではないでしょうか。「我欲」はダメですが、みんなと一緒に幸せになるような「欲」を持つことは良いことです。「欲」がなければ成長もしませんから。それぞれの人がそれぞれの持ち場で最大限の力を発揮すれば、それが会社の繁栄に繋がると思います。
今後、事業の承継が大事になってきますね。
大事ですね。アメリカに行っていた娘が戻って来たので、私も来年は娘に経営をバトンタッチする予定です。昭和35年の創業なので、来年はちょうど創業65周年なんです。その節目で全面的に交代しようかなと考えています。
事業承継は創業者と同じ危機感を持ってやらないと難しいですね。私が武蔵境自動車教習所を承継した時は労働組合との交渉も激しく、そういう意味では大変でした。しかし、これ以上悪くなりようがないところでのバトンタッチでしたから、それを良くすることは難しくありませんでした。今は会社の業績はいいですし、それなりに社会でも認めていただいています。それだけに、それをこれからもっと良くするのは大変だと思うんです。娘にはその能力があると思いますが。
最近はM&Aでの承継も増えてきましたね。
M&Aでの第三者承継もいいと思います。私も坂出自動車学校をM&Aで引き継ぎしました。とはいえ、私は月に二回、経営会議に出席するだけ。元々いた社員さんが経営計画書も作り、素晴らしい会社にしてくれたと思います。結局、そこにある人財をどう活かしていくかというのが大事ですね。
M&Aはやる人にとっても大きなメリットがあります。お店も商品もあり、尚且つ、お客様もついているんですから、やる気のある人なら事業を承継するほうが良いこともたくさんあります。
大事なのは渡す方の「念い」と受ける方の「念い」がちゃんと合っているかどうかです。承継する人に「なぜその事業を継ぎたいのか」という「念い」がなければいけない。ただ条件が合えばいいというものではないと思います。
創業者の方にアドバイスしていただけるとしたら、どんなことですか?
ぜひ経営計画書を幹部社員さんと一緒に作ってください。「今年はいくら売上を出そう」というような目標がないと、待っているだけの仕事になってしまいます。自分で作った目標があることで、どうやったら達成できるかを社員さんも考えて動くようになります。
売上を上げるためにはお客様に来ていただかなくてはなりません。そのために、お客様が何を求めているのかを常に考えて、徹底して期待に応える他社がやらないようなサービスを考える。それが差別化に繋がります。企業にとって差別化が生き残れるかどうかの鍵になります。直接利益にならないようなことをやる必要はないかもしれないですが、やれば喜ばれることならばやるべきです。そうすることで会社のイメージアップにもなり、会社のブランド力も上がります。
経営者はすぐに「戦略」とか「戦術」の話をします。確かにそれも大事ですが、それ以前に「念い」がなければダメだと思います。「こういう会社にしたい」「こんな風に社会に貢献したい」という「念い」から「戦略」や「戦術」が出てこなくてはならないと思います。ただ売上を上げるための「戦略」や「戦術」は続きません。経営者の「念い」があればずっと継続してやれます。経営者の 「念い」は、すなわち「理念」です。組織が大きくなればなるほど「理念」という柱が
一本通っていないとバラバラになってしまいます。社員さんにもその「念い」を共有して、お客様が何を求めているのかを考えて、お客様に喜んでもらうことが会社の業績向上に繋がると思います。
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