税理士法人 Future Consulting 代表
小澄 健士郎(こすみ けんしろう) さん
税理士法人フューチャーコンサルティングは東京本社と北海道支社を軸に事業を展開しています。YouTubeチャンネル「税理士ケンシローのマネーカレッジ」で大活躍の小澄先生に、創業で“失敗しない”ためのポイントを伺いました。
そもそも「創業で失敗する」ってどういうことですか?
創業の「失敗」とは、ずばり「お金の失敗」です。お金がなくなって支払いができなくなると、事業を続けていくことができなくなります。売上は赤字であっても、支払いさえできていれば事業の継続は可能です。事業を続けていければチャンスが巡ってくる可能性もあります。ビジネスをお金ばかりで考えると寂しくなっちゃいますが、リスクを取って創業されるのであれば、お金も重要です。皆さん夢を描いて創業されると思いますが、創業時には事業で「大成功する」ことよりも「失敗しない」ことが大事だと思います。
失敗の原因はどんなことが多いでしょうか?
まず初期費用にお金をかけ過ぎることですね。たとえば都心部に店舗を持ち、優秀なスタッフを雇い、集客のために広告費をかけて事業を始めたものの、結果的に思ったような売上が上がらず、資金繰りに苦労されたあげく、借金だけが残るといったケースもあります。逆に、ご自分が創業予定の業界数社で経験を積み、十分な資金を貯めてから独立された方は、立地は良いけれど古いマンションの一室に事務所を構え、スタッフは雇わず営業も外注というふうに、初期費用をできるだけ抑えて事業を始められ、事業として成功された方もいらっしゃいます。今では店舗もあり、社員も雇用され、着実に事業を広げられています。自分の好きなこと、やりたいことにこだわりを持つことと、お金を稼ぐことは少し違うんですね。「こだわりは事業が軌道に乗ってから」「最初は自分がやりたいことの半分ぐらいから」という意識で始めるのがいいと思います。
人件費などの経費にもけっこうお金がかかりますよね。
そうですね、毎月かかる固定費もできるだけ抑えたいところです。固定費で一番大きいのが「人件費」です。
人件費で考えるべきは、
① 社員にする必要があるのか? 外注ではダメなのか?
② 正社員を一人雇用するよりも、パートを二人雇用する。
③ 家族は労働基準法に関係ない(笑)。
という点になります。
もうひとつ大きい固定費は「家賃」です。飲食店などは立地がとても重要な条件になりますが、どうしてもそこでなければダメなのか、それだけの家賃を払う価値があるのかは考えてみる必要があります。そして創業時につい使い過ぎてしまう経費が「広告費」です。特に大きな会社でビジネスを経験されて独立された創業者の方は広告に頼る傾向がありますから要注意です。マス広告はお金に余裕のある大手の戦略です。小規模の事業者は、広告費をかけない戦略、つまり「口コミ」や「紹介」でお客様を増やしていくのが理想です。そのためには、まず、皆さんのご友人にご自分のサービスや商品を試してもらいましょう。そして、そのご友人が「紹介」をしてくれるのであれば、皆さんのサービスや商品のクオリティーは高いということになります。そして、その「紹介」でお客様が増えてきたら広告を出すことも考えてよいと思います。
創業時にはある程度のお金が必要になると思いますが、創業融資は受けたほうがいいんでしょうか?
受けた方がいいです。借金してでも通帳にお金が残っているようにしましょう。特に創業融資はおすすめです。昨年も創業融資についてお話させてもらいましたが、創業融資をおすすめする理由は、
① 事業計画書を書くことによって、自分の事業を客観的に見ることができる。金融機関の専門家に“ただで”アドバイスしてもらえる。
② 返済実績が作れる。返済実績があれば、将来本当に必要になった時に、借り入れがしやすい。
③ 口座にお金があるほうが精神衛生上良い(笑)。
④ 良い意味でのプレッシャーにもなる。売上を上げていくモチベーションのひとつになる。
創業の際には少額でいいので創業融資を受けてみてください。ただし、借金で気が大きくなって無駄なお金を使ったり、借金の依存体質にならないように注意が必要です。
事業について、よく「差別化が大事」って言われますが、差別化ってどういうことですか?
他社と差別化されたUSP(Unique Selling Proposition)が重要だと言われますが、それは補助金などを受ける際や、大きく成功するための観点になると思います。創業者が失敗しないためには、「他社との差別化」にこだわるよりも「お客様のニーズがどこにあるのか?」を考えて、「お客様のお困りごとを解決したい」というスタンスで事業内容を考えていくことが重要だと思います。
事業を始める際に一番悩ましいのは値付けだと思うんですが、どう考えたらいいでしょうか?
価格は安くすればいいというものではないのですが、お客様が商品やサービスを選ぶ際の条件に「価格」は絶対に入っていると思います。創業したばかりの会社にはブランドも看板も知名度もない、つまり、「信用がない」という状態です。まずは使っていただいて、リピートしていただくことが重要なのに、価格の問題でお客様の選択肢から外れてしまうのはもったいない。なので、創業時には「破格のサービス」ではなく、競合他社よりも優れたサービスを、競合他社よりも「割安な金額」ぐらいで設定すると失敗しにくいと思います。お客様が増えて、優れたサービスであることを納得してもらえたら、値段を上げていけばいいと思います。
経営者としてお金について最低限知っておくべきことはなんですか?
「お金に無頓着な経営者はいない」ということです。事業をちゃんと軌道に乗せている経営者にお金に無頓着な人はいません。何を持って「無頓着」というかは難しいところですが、この2つの数字だけは知っておいてください。
① 毎月の売上高
② 毎月末の預金残高
事業を軌道に乗せている経営者の方は、この2つはちゃんと把握しておられる方が多いようです。
創業で「失敗しない」ためのポイントを教えてください。
ここまでの話をまとめると、
① 初期費用は抑えろ!!
② 人件費が一番の経費!!
③ 家賃は抑えるのが吉!!
④ 広告に頼るな!!
⑤ 現金は厚く持て!!
⑥ 差別化ではない、ニーズを満たせるかだ!!
⑦ 価格もサービスだ!!
⑧ お金に無頓着な成功者はいない!!
の8つが大切なポイントです。①〜④はできるだけお金を使わないで事業を始めるということ、⑤〜⑧はマーケティング的なポイントになります。どれも「小さく始めて大きく育てる」という姿勢が大切だということです。YouTubeチャンネル「税理士ケンシローのマネーカレッジ」では、創業者向けのコンテンツもたくさんアップしていますので、そちらもぜひ参考にしてみてください。
(取材:いなだゆかり)
税理士法人Future Consulting〒180-0002 |